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s-101 此例に依る又不可とせずと
s-102 僕謂ふに然らず
s-103 盖人民の言語天性に本づく
s-104 風土寒熱人種の源由相合して生ず
s-105 必變ずべからず
s-106 昔我國漢土の音を學ぶ
s-107 沿襲の久しき其眞を失す
s-108 之を呉音と云ふ
s-109 中葉に及んで再び漢音を學ばしむ
s-110 沿襲の久しき再び其眞を失ふ
s-111 之を漢音と云ふ
s-112 故に今の唐音と別なる者を生ず
s-113 遂に此二音の眞ならざる者を傳へ亦除くべからざるに至る
s-114 且王朝の古官府亦漢語を用ふ
s-115 故に其文化局して海内に布くを得ず
s-116 遂に變じて候文となり和語に於ても奉る致す爲め如し等を上に置く
s-117 凡そ此等天性の言語を廢し他の言語を用ひんと欲するの蔽殷鑑的然たる者に非ず乎
s-118 曰く然らば則ち吾子の洋字を用ふる其説如何
s-119 曰く洋字を以て和語を書し呼法を立て以て之を讀む
s-120 如此き耳
s-121 然るに而て其事たる嚴令して行はるべきにあらず
s-122 禁罰して習はしむべきにあらず
s-123 習ふに漸次を以てし行ふに歳月を以てし寡より衆に及ぼし小より大に至らしむ
s-124 同志社を結び同好相投ずるにあらざれば能はず
s-125 是其以て社を結ぶの要なる所にして又諸先生の名望を假るにあらざれば成すべからざる所なり
s-126 曰く利十ならざれば事を變ぜず
s-127 害百ならざれば法を更めずと
s-128 今洋字を以て和語を書す
s-129 其利害得失果して如何
s-130 曰く此法行はるれば本邦の語學立つ
s-131 其利一なり
s-132 童蒙の初學先づ國語に通じ既に一般事物の名と理とに通じ次に各國の語に入るを得
s-133 且同じ洋字なれば彼を見る既に怪むに足らず
s-134 語種の別語音の變等既に國語に於て之に通ずれば他語は唯記性を勞する耳
s-135 是入學の難易固より判然たり
s-136 其利二なり
s-137 言ふ所書く所と其法を同うす
s-138 以て書くべし
s-139 以て言ふべし
s-140 即ちレキチュアトーストより會議のスピーチ法師の説法皆書して誦すべく讀んで書すべし
s-141 其利三なり
s-142 アベセ二十六字を知り苟も綴字の法と呼法とを學べば兒女も亦男子の書を讀み鄙夫も君子の書を讀み且自ら其意見を書くを得べし
s-143 其利四なり
s-144 方今洋筭法行はれ人往々之を能くす
s-145 之と共に横行す
s-146 其便知るべし
s-147 而て大藏陸軍等既にブウクキーピンクの法を施行す
s-148 之と共に横行字を用ゆ
s-149 直に彼の法を取るのみ
s-150 其利五なり
s-151 近日ヘボンの字書又佛人ロニの日本語會あり
s-152 然ども直ちに今の俗用を記し未だ其肯綮を得ず
s-153 今此法一たび立たば此等亦一致すべし
s-154 其利六なり
s-155 此法果して立たば著述飜譯甚便りを得ん
s-156 其利七なり
s-157 此法果して立たば印刷の便悉く彼の法に依り其輕便言ふ斗なかるべし
s-158 彼國にて此術に就て發明する所あれば其儘にて之を用ふべし
s-159 其便八なり
s-160 飜譯中學術上の語の如きは今の字音を用ふるが如く譯せずして用ふべし
s-161 又器械名物等に至ては強て譯字を下さず原字にて用ふべし
s-162 是其利九なり
s-163 此法果して立たば凡そ歐洲の萬事悉く我の有となる
s-164 自國行ふ所の文字を廢し他國の長を取る
s-165 是瑣々服飾を變ふるの比にあらざれば我が國人民の性質善に從ふ流るるが如きの美を以て世界に誇り頗彼の膽を寒やすに足らん
s-166 是其利十なり
s-167 此十利あり
s-168 而て之を行ふ亦何を窮して决行せざる
s-169 曰く然らば果して害あるなきを得んや
s-170 曰く筆墨肆其業を失ふ
s-171 其害一なり
s-172 然るに所謂筆墨肆は三都其他僅々の數のみ
s-173 且行ふに漸を以てす
s-174 彼亦業を轉ずるの暇あり
s-175 固より顧るに足らず
s-176 紙の製改めざるべからず
s-177 其害二なり
s-178 然るに近日既に洋紙製造所を建るの設あり
s-179 漸次の勢に依て推して之を全國に及ぼす
s-180 而て我の紙眞に多く我の障子ガラスとならば以て世界の用に供すべし
s-181 是害を轉じて利となすなり
s-182 唯漢學者流國學者流此説を傳聞せば頗る之を厭ひ嫉む者あらん
s-183 是其害三なり
s-184 然るに所謂國學を以て之を視れば之に依て國語の學始て立つヿを得べし
s-185 是悦ぶべくして惡むべきにあらず
s-186 况や我より漢と洋とを視る素より差別なし
s-187 而て洋字は音語にして漢字の畫字たる我と相反するが如きにあらざるをや
s-188 故に彼れ眞に其利便を知らば眞に服すべきなり
s-189 漢學の如き我國に在て猶洋の拉丁の如し
s-190 兒童初め國語を學び次に漢語に從事せしむ
s-191 是中學以上の科となる
s-192 其分界自ら判然たり
s-193 所謂漢學者流も中學以上の教師として猶彼の拉丁語希臘語の學師の如し
s-194 是其學の級從て登るなり
s-195 亦患ふべきの事にあらず
s-196 唯村學窮手習師匠俗吏里胥の類之を聞かば甚悦びざるあらん
s-197 然れども是之を令するにあらず
s-198 且施行上漸の一字彼をして窘窮するに至らざらしむ
s-199 故に卒然の患なき知るべし
s-200 是を以て三害既に害の害たる者にあらずして所謂十利なる者は利の眞利なる者なり

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